納税猶予は取消されることも! 取消事由について解説します

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事業承継税制を利用することにより、株式を贈与された人や相続で取得した人は贈与税や相続税の納税が猶予されます。

ただし、その後一定の事由(納税猶予の期限の確定事由と言います)に該当した場合には納税猶予が取り消され(納税猶予の期限の確定と言います)、猶予されていた税額(と利子税)を納付しなければなりません。

ここでは「納税猶予の期限の確定事由」について「特例期間内」と「特例期間経過後」に分けて解説します。

特例期間とは

最初に「特例期間」について解説します。

「特例期間」とは、先代経営者から後継者に株式を贈与又は相続により取得をして納税猶予の適用を受けた場合に、納税猶予を維持するために特に厳しい条件が設けられている最初の5年間のことを言います。

具体的には次のようになります。

(1)贈与の場合

「先代経営者から株式を贈与により取得した年の翌年3月16日」から「同日後5年を経過する日」までの期間が特例期間となります。

(2)相続の場合

「先代経営者の相続開始の日の翌日から10か月を経過する日」が「相続税の申告期限」となり、「相続税の申告期限の翌日」から「同日以後5年を経過する日」までの期間が特例期間となります。

特例期間内の納税猶予の期限の確定事由(概略)

特例期間内に次の事由(納税猶予の期限の確定事由)に該当することとなった場合には、該当することとなった日から2月以内に納税猶予額の全額を納付しなければなりません。

(1)後継者が代表権を有しないこととなった場合

特例後継者が「身体障害者手帳の交付を受けた場合(1・2級)」、「要介護認定5」などで代表者を退任した場合を除きます。

(2)後継者がその同族関係者と合わせて有する議決権数が50%以下となった場合

(3)後継者が同族関係者の中で筆頭株主でなくなった場合

(4)後継者が納税猶予の対象となっている株式の譲渡・贈与をした場合

特例期間内はたとえ1株でも譲渡・売却した場合は、納税猶予額の全額を納付しなければなりません。

ただし、合併・株式交換などの組織再編に伴い株式の譲渡が行われたとしても、一定の要件を満たした場合には納税猶予が取り消されないこととされています。

(5)特例会社(納税猶予の対象となっている株式の発行会社)が解散した場合又は解散したとみなされた場合

株式会社について最後の登記をしてから12年を経過した場合、その会社は解散したとみなされることがあります。詳しくは休眠会社・休眠一般法人の整理作業について(法務省)を参考にして下さい。

(6)特例会社が資産管理型会社に該当することとなった場合

(7)特例会社の事業年度における売上金額がゼロとなった場合

売上には「営業外収益」「特別利益」を含みません。

(8)特例会社が資本金の額の減少をした場合又は準備金の額の減少をした場合

以下の場合は除かれます。

(a)減少する資本金の全額を準備金とする場合

(b)減少する準備金の全額を資本金とする場合

(c)欠損金の範囲内で準備金を減少する場合

(9)後継者がこの制度の適用をやめる旨の届出書を提出した場合

(10)特例会社が非上場会社に該当しないこととなった場合

(11)特例会社又は特定特別関係会社が性風俗関係会社に該当することとなった場合

(12)後継者以外の者が「黄金株」を有することとなった場合

「黄金株」とは株主総会等の決議(取締役の選任、合併など)について、拒否権を有する株式を言います。

(13)納税猶予の対象となっている株式が議決権に制限のある株式に変更された場合

(14)(贈与税の納税猶予の場合)贈与者が代表権を有することとなった場合

(15)(一般措置の場合)雇用維持要件を満たさなかった場合

雇用維持要件とは「特例期間の5年間の平均の常時使用する従業員数」が「贈与又は相続開始時の常時使用する従業員数の8割」を維持することであり、次の算式により判定されます。

(※)常時使用する従業員の数とは「厚生年金または健康保険の被保険者」「会社と2か月を超える雇用契約締結している75歳以上の者」を言います。

(※)報告基準日とは贈与税又は相続税の申告期限の翌日から1年を経過するごとの日を言います→参考

 

(具体例)

下記の場合 (22人+17人+14人+12人+15人)÷5=16人<25人×80%=20人 となるので雇用維持要件を満たしません。

 

ただし事業承継税制の特例を適用して納税が猶予されている場合は、この要件を満たさなかったとしても、「特例承継計画に関する報告書(※)」を都道府県知事に提出すれば納税猶予は取り消されないこととされています。

2027年12月31日までは事業承継税制の特例を適用することが可能なので、それまでに株式の移転をして事業承継税制の特例の適用を受ける場合は本来、雇用維持要件を考慮する必要はありません。

しかし事業承継税制は先代経営者(1代目)から後継者(2代目)への株式の移転だけでなく、後継者(2代目)から後継者(3代目)への株式の移転も視野に入れて検討しなければならない制度です。

(雇用維持要件がない)事業承継税制の特例は2027年12月31日までに株式を移転することが条件であり、後継者(2代目)から後継者(3代目)への株式の移転の際には(雇用維持要件が課せられる)事業承継税制の一般措置を適用しなければならない可能性が高いことを考慮して、先代経営者(1代目)から後継者(2代目)への事業承継税制の特例を適用すべきか検討する必要があります。

(※)「特例承継計画に関する報告書」の記載事項は次の通りです。
(a)雇用維持要件を満たせなかった理由
(b)雇用維持要件を満たせなかったことについての認定経営革新等支援機関の所見
(c)上記(a)の理由が経営状況の悪化である場合等には、認定経営革新等支援機関による経営力向上に係る指導及び助言を受けた旨

特例期間経過後の納税猶予の期限の確定事由(概略)

特例期間経過にも一定の事由(納税猶予の期限確定事由)に該当した場合には、該当することとなった日から2月以内に猶予されていた税額を納付しなければなりません。

上記の特例期間の納税猶予の期限確定事由のうち一部の事由を除いたものが、特例期間経過の納税猶予の期限確定事由とされています。

また特例期間に納税猶予の期限が確定した場合には猶予されていた税額を全額納税しなければなりませんが、特例期間経過に納税猶予の期限が確定した場合には必ずしも猶予されていた税額を全額納付しなければならないということではありません。

特例期間経過は全額納付しなければならない場合もありますが、譲渡等をした株式に対応する税額を納付すれば残りの税額については引き続き納税猶予が継続する場合もあります。

特例期間と特例期間経過の「納税猶予の期限の確定事由」についてまとめたのが次の表です。

上記の表の通り、特例期間に納税猶予の期限の確定事由とされていた事由のうちいくつかの事由は特例期間経過は納税猶予の期限の確定事由とされていません。

また、特例期間経過に(4)後継者が、特例対象株式を譲渡又は贈与をした場合は、猶予されていた税額のうち譲渡又は贈与した株式に対応する部分について納税猶予の期限が確定して納付することとされています。

この場合、譲渡又は贈与しなかった株式に対応する税額は納税猶予の期限が確定せず引き続き納税が猶予されます。

納税猶予適用後は事業再編・事業承継対策の選択肢が少なくなります

贈与税・相続税の納税猶予の適用した場合には、後継者が事業再編や事業承継対策について様々な制限を受けることとなります。

たとえば先代経営者から取得した特例対象株式について後継者が納税猶予の適用を受けている場合で、後継者が特例期間内に譲渡又は贈与したときには全額、特例期間経過後に譲渡又は贈与したときには譲渡又は贈与した株式に対応する税額を納付しなければなりません。

そのため納税猶予の適用を受けている後継者が特例対象株式を売却(M&A)して新たな事業を起こしたい場合であっても売却に伴う税金の負担を考慮して、二の足を踏むかもしれません。

また先代経営者が生前に後継者に贈与税が課されない範囲内で(あるいは低い税率が適用される範囲内で)株式を贈与するという対策が一般的に行われます。

2代目の後継者が納税猶予の適用を受けている場合で、特例対象株式を3代目の後継者に(事業承継税制を適用しない)通常の贈与をしたときには、2代目の後継者は猶予されていた税額を納付しなければなりません。

つまり、2代目の後継者は納税猶予の適用を受けている株式を相続対策として3代目の後継者に生前贈与することは事実上できません。

そのため2代目の後継者が死亡した場合には、納税猶予の適用を受けていた全ての株式について3代目の後継者は相続税の負担をすることになります。

2代目の後継者から相続により取得した株式について3代目の後継者は納税猶予の適用を受けることは可能ですが、2代目の後継者から3代目の後継者への株式の移転は(事業承継税制の特例の適用期限である)2027年12月31日より後となる可能性が高いですから、最大でも発行済株式の53%の株式に対応する相続税しか納税猶予を受けることはできないということが想定されます。この場合、最大残りの47%の株式に対応する相続税を現金納付するということもありえます。

このように事業承継税制は後継者の事業再編・事業承継対策の選択肢を狭めることになりますから、目先の税負担だけにとらわれず、後継者と綿密な相談の上適用の可否を検討しなければなりません。

まとめ

事業承継税制は納税が猶予されるということに注目が集まりますが、猶予を維持し続けるには期限の確定事由に該当しないことが必要です。

そのため数十年という単位で会社をどのように経営していくのか、後継者をどのように確保していくのかということを考える必要があります。

当事務所では現在の会社の状況だけではなく未来の会社の方向性も踏まえて事業承継税制についての相談を承っています。興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

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